『私のオーストリア旅行』

 

第2話            " 北極点の赤い旗    "  

          

飛行機は無事離陸しました。初めての人も多く、終始機内は大騒ぎです。

その頃は、救命胴衣の説明は、ビデオではなく、目の前でスチュワーデスさんが着て実演してくれました。終わると、うっとりとそれを見ていた男の子達から拍手がわき起こります。

機内食も物珍しく、ぺろりと平らげ、食べ盛りの若者は、おかわりを要求するありさま。

まず給油のために到着したのは、アンカレッジです。アザラシの皮のおみやげ物などをひやかしていると、英語ばかりが聞こえてきて、日本を離れた事が実感できます。すると不意に、「うどん」の看板。もう懐かしくて食べている人もいます。

当時は、ソビエト上空は飛行することが出来ず、「北極経由」でコペンハーゲンに向かいました。下を見ると、一面白色の大地にくねくねと大きく蛇行した川が見えましたが、ちまちまとした風景を見慣れている私には、とても実際の大きさを想像することは出来ません。

そんなとき「当機はまもなく、北極点上空を通過いたします。」とアナウンスが入りました。小さな楕円形の窓から、下を見ていると、
「アッ、赤い旗が見える!」
という声が聞こえました。眼下に広がるブルーグレーの海と大小の無数の氷の漂う中に、そんなものある筈がないと思いつつも、ドドッとみんなそちらの窓際に移ります。はたしてそんな物はないのです。

それは、「そうだったらいいのになぁ。」と思って、ちょっと口を滑らせてしまった、私の大きすぎた独り言でした。

つづく

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