『私のオーストリア旅行』

 

第6話           "  バス コステッテ ダス?  "   

 

清潔なベッドで目覚めると、愛くるしい笑顔がドアの隙間から見えました。ルートです。

おはよう Lute    

昨日は彼女をheと言うのかsheと言えばいいのか分からず困っていましたが、今朝は女の子だろうということになりました。

しきりに何か話してくれるのですがドイツ語のしかもオーストリア方言、寝ぼけまなこの私はまだ、モーロウーとしています。英語と共通する単語をさがし、"エレファント"で接点を見出しましたが、私達の発音が気に入らないらしいルートに、友人と二人"エレファント"、"エレファント"と何度も何度も言い直しさせられたのも今は懐かしい思い出です。

朝からはトロッコのようなもので、山登りをしました。寒くて気が付くと温度計は13℃を示していました。これでもここは夏なのです。

 

スケジュールの合間を縫って、私達は町の銀行で換金しました。1オーストリアシリングが18円です。(ちなみに今日のレートは7.83円です。19:00 01/02/28)銀行から出てくると、アイスクリーム屋のパラソルが目に付きました。友人も外国のお金での初めての買い物に依存はありません。私はわずかなドイツ語のボキャブラリーの中から、初めての買い物のアイスクリーム

"バス コステッテ ダス?"(いくらですか)

と即座に聞きました。なにやら売り子の女の子が答えています。私は、通じた事に感動しているので、彼女の答えが聞き取れるわけもなく、再度声高らかに "バス コステッテ ダス? "と叫びます。今度は聞き取るつもりなのですが、彼女の答えは、早すぎて解りません。実はゆっくりでも解らないのです。聞く訓練をしていなかったのですから。ここで私は語学は、読めればいい、言えればいいのではなく、聞く事が出来なければ何の意味もない、相手の言うことを聞いてこそ、話ができるという大発見をしました。

そして結局手のひらに硬貨を広げて取ってもらい、それが3シリング50だと知ったのです。   
       

その後も、硬貨の裏表を確かめて、数字を読む自分の仕草が、京都で外人さんがやっているそれと全く同じ事だと思い当たり、苦笑してしまいました。日本のお金なら確かめなくても平等院が見えればそれは10円だと子供でも知っている。そんなことも小さな驚きでした。

オーストリアに入ってすぐに、外人の目で、日本及び日本人そして自分を見直すという事が、新鮮で大きな興味として、私に芽生えました。

つづく

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