『私のオーストリア旅行』
第14話 " 街に出てみれば 2 "
――チロル土産――
どんなお土産を買うか。それは海外旅行の大きな楽しみのひとつです。でも限られた時間で、しかも、そこでしか手に入らない物を買いたい等と思ったら、それは大きな悩みにもなります。
当時の日本は、今まで一部の人の持ち物だったブランド品が、大衆化するまさに黎明期でした。だからブランド品をお土産にしさえすれば、大喝采を受けたかもしれませんが、私は「チロルだから…。オーストリアだから…。」という物を買って帰りたいと思っていました。陸続きのヨーロッパで戦争の度に国境が移動するのは、為政者の側の勝手で、住民には迷惑な話。元々違いなど無いのかもしれませんが、南ドイツのバイエルン地方から、オーストリア、スイスにかけては、よく似た物が見られます。ヨーロッパ一の広大な領土を占めていたハプスブルグ家のオーストリアが、帝国だった頃の名残かもしれません。いつ行っても同じ様な物が、同じように売られています。人気のあるお土産は、時代も人も選ばないのかもしれません。少しは違いもありましょうが、彼の地で外人の私に判別できるわけもありません。
お土産の典型的な物としては、例えば
カウベルの壁飾り、アルペンフラワーの刺繍のハンカチ、ドライフラワーを束ねて作った、ミニブーケや壁掛けや吊す飾り物、テーブルクロス、チロルの民族衣装を着た男女の絵つきカレンダー、テーブルセンター、観光名所の絵付きビアジョッキやワイングラス、チロリアンテープのついた小物、コースター、可愛い手書きの絵のついた木製の小物、同じく絵付きガラス、そして男児用の皮の半ズボン、女児用、婦人用の民族衣装「ディルンドルン」、スキーセーター、チョコレート、干し肉、チーズ ……。まだまだあります。
これらは、チロルを想像させるのに最高の物ですが、実は上記の国のどこの観光地でも大抵入手できます。
私が努力を惜しまず捜した結果、本場チロルならではと思われた物は"エーデルワイス等のアルペンフラワーをふんだんに使った押し花の額"、と"ガーネット"でしょうか。
さて、広場を横切り、古色蒼然とした石造りの建物の一階の通路部分を、ウィンドウに魂を奪われながら歩き始めました。ヨーロッパの殆どのお店は、土、日や、平日のお昼休みには完全に閉まりますから、みんな、その間はウィンドウショッピングで品定めをします。だからヨーロッパのショウウィンドウは本当に魅力的に造られています。
ここは、二度"冬季オリンピック"の開かれた街ですから、Kneisslのスキー板やスキー靴も売っていました。傍らには、エーデルワイスのマークのついた、高価だが日本でも買えるセーターが寝ていたり、たくさんの色の編み込み模様のカーディガンが、首の所を引っかけて立体的に立っていたりします。
この辺りは、絵はがきやキーホルダーなどのいわゆるおみやげ物も売っていますが、住民のためのインテリア用品などを売る、おしゃれなお店も混在しています。ブランド物だけの店はあまり見かけませんでしたが…。人々は、ごく普通に(普段着としてではないが)民族衣装を着るので、そういう店もあります。
男性用の、詰め襟風のチロル独特の形と深いオリーブグリーンが特徴の上着とお揃いでサイドに羽根のついたチロリアンハット。とても固い上質のウールの織り物で、きっと暖かさ抜群で、寒さの厳しい冬に威力を発揮するのでしょう。小さなチョッキと小さなブラウス、スカート、エプロンでお馴染みの女性用民族衣装「ディルンドルン」の良い物は、目抜き通りの近くなのに、観光客の足が向かない場所に専門店があります。お値段はお手頃というわけでは無い上、日本で違和感無く着られる"場"があるかという問題もあります。
正装に用いられる民族衣装は、地方によって男女とも少しずつ違いますが、これは、黒い絹で、地域で決まった模様の刺繍入り、しかもすべて手縫いのお誂えが普通ですので、非常に高価で私達観光客が簡単にお目にかかれる事はありません。和服の訪問着が簡単に手に入らないのと同じではないでしょうか。
民族衣装ではないが、そんな匂いのするチロルのグリーンと、灰色のコンビネーションの厚手のセーター。スカートも紺やグレーの落ち着いた色合いのとても素敵なものが並んでいました。外国製の普通サイズが私にはぴったりなのですが、やはり高価。そして暖かい分しこたま重いのです。
これら冬のセーターがウィンドウに並んでいても、ちっとも不思議では無いほど、その日の気温は低かったようです。
チロルと言えば、チロリアンテープ!! フツウの若い女の子は、大好きなはず。私も日本に売っているオーストリア製の刺繍の小物が大好きでしたので、現地で、お安くどっさり買って帰るつもりでいました。ところが、ここは京都の四條河原町と二条城がくっついたような観光心臓部です。ここで、おみやげ物でないクッションカバーや手芸の材料などの小物を手に入れるのは、次第に困難ではないかと思えてきました。街全体は結構広いですからそんなにうまくほしい物の売っているお店に行き当たれるでしょうか。
ちょっと変わった物があるかもしれないと、スーパーにも行って見ました。そこでも「日本で売っていない物を買いたい。」ことが無謀な企みだとすぐに解りました。愛用のレブロンのシャンプーや、ネスカフェがありました。全てドイツ語、もしくは英語であることを除けば日本の物と全く同じです。見慣れたパッケージですぐそれと解る紺色に白字の " ニベアクリーム "と" Knorr "のスープを見つけ、私は思わず裏向けて捜しました。"三日月のマーク"と花王の文字そして"味の素"のロゴを。見つかったと思いますか? 缶の裏を見て一人ニヤニヤしている、日本人の女の子を見てしまった外人がいたら、何と思ったでしょうね。勿論、全面アルファベットで、物足りない思いが残りました。何でもそろう豊かな国それが日本だと知りました。
そこではアメリカの会社のドイツ語表示のバンドエイドを買いました。以来、外国に行くと私はいつもその国の言葉が書かれたバンドエイドを買い求めます。粗忽な私が怪我をしたときのためとコレクターとしてです。そして職業的興味で、薬局に入ってみたいからです。
そして私が次に買った物は・・・
01/02/25