『私のオーストリア旅行』
第15話 " 街に出てみれば 3 "
――ガーネットのリング――
今も一番思い出に残るお土産は、なんと言ってもチロル特産の石榴石、ガーネットのリングです。ガーネットの主な産地は、ブラジルやタンザニアで、チロルでガーネットが産出することは、その量が僅かであることからもあまり知られていませんが、赤ワインのような深い紅色には、特別の魅力があります。余り透明度はないので、宝石としての価値はよく解りません。
ガーネットはヨーロッパでは、古来魔よけの石として珍重され、中でも十字軍の兵士が戦場で肌身離さず持っていた逸話は有名です。時代が下って19世紀末、ヨーロッパの宝石店のショーウインドウに飾られた商品は、ガーネットが半分以上を占めていたと言うほど、人気があり人々に親しまれてきた宝石です。
女性用の民族衣装「ディルンドルン」にも無くてはならない物で、ネックレス、指輪、そしてベルトなどに加工されます。どれも古典的な凝ったデザインの銀細工で飾られたハンドメイドで、正装の時に背中や腰に幾重にも下がるガーネットのあしらわれた銀の鎖は、見事と言うほかありません。『黄金の小屋根』 すぐ近くの古めかしいビル一階奥深く、これまた古めかしい作りの宝石店に入りました。 明るいとは言えない店内にある装飾品は、民族衣装用ですから、今の服装にあわせにくいのが難と言えますが、どれも素敵でどうしても一つ、ほしくなりました。
私のリングサイズは#16ですから、洋服と同様、外国の普通サイズがぴったりなのです。選べてこそ、買い物の楽しみもあるというもの。色々試しにはめてみました。日本では、なかなかこうはいきません。
ガーネットを取り巻いている銀の唐草に、金の玉が所々についた物が気に入りました。勿論サイズもグーです。私の指は、太いだけではなく短いので、かなり大きな石でないと貧弱に見えてしまう不経済な手ですが、何とかうまくいきました。お揃いで胸元を飾るゴージャスなネックレスを勧められ、お金もないのに(女ですね〜)その気になって、つけてみました。「全然似合いません。」彼女が着けると素敵ですが、私とネックレスに隔たりがあるのです。外国の売り子さんはプロフェッショナルですから、どこかの店員さんみたいに、試着した服のサイズが合っていなくても
「ピッタリだわーっ。良くお似合いですヨー。」
なんて事は決して言いません。
私は、顔の作りに問題があるのではとその時、感じました。私がブスだからだって? それはおいといて・・・・・、私が東洋人でしかも若すぎるからではと思いました。あくまでも細い、チャイニーズアイ。ぺたんこの鼻。太く短い首。
大きな石がいくつもついて、ごてごてしたデコラティブなネックレスは、石の大きさに負けない淡く澄んだ大きな目とアルプスのような鼻、つまりあらゆるところに凹凸が必要なように思いました。
若さの方が、宝石よりどんなに輝いているか、その時の私は知る由もありませんでしたが、石の重さに耐えうる、年を重ねた人間の重さ、あるいは魅力で、宝石は輝くのだと最近思います。
もう一品、少しモダンなデザインのカフスボタンを、父のお土産に買い求め、その時は店を出ました。
諦めきれなかった私は、一人で二度目にインスブルックを訪れたとき、また同じ店に行き、今度は私の凸凹に見あう、小粒のガーネットがいくつかついた カジュアルなネックレスを買いました。箱の表書きの名前と住所
もう一つ、私の買ったチロルらしい物は『押し花の額』です。
Granatschmuck
SIGRID JAEGER
Gold・Silberwaren
6020 Innsbruck
Herzog・Friedrichstr.22
エーデルワイス等のアルペンフラワーをふんだんに使った額は、大きな物から小さな物まで色々あり、その花の配置もお値段も、うっとりするほど素晴らしい物でした。日本にある押し花の額は日本の湿度が高いせいか、すぐに色あせてしまいます。でも私の買った額は今も当時のまま、驚くほど美しい色を保っています。
この『チロルの押し花の額』が旅行後、数年して雑誌『ミセス』、『家庭画報』で紹介され、かなりの値段がついていました。それだけの価値の物を自分で見つけたことに、私は、大変満足しました。
他にも細かな楽しい物は色々ありますが、折を見て触れたいと思います。私は可愛いチロリアンテープがほしくてたまりませんでしたが、ガーネットなどという予想外のお土産を手にして、すっかりそのことは忘れて仕舞いました。でも初志貫徹。ザルツブルグで、ついに専門店を見つけ目出度く目的を達成する事が出来ました。
01/03/06 up