『私のオーストリア旅行』
第18話 " リゾートはクラーゲンフルトで "
ケルンテン州の州都クラーゲンフルトは、リゾートの街です。隣のザルツブルグ州の湖と山の大変美しいザルズカンマーグート地方から、グロスグロックナーを越えて、ハイリゲンブルートそして、クラーゲンフルト近郊の点在する湖に、夏のバカンスを楽しむ人々が大勢やって来ます。 わざわざどうして、暑くもないのに避暑になど・・・と思っていたら、そうではなく、短い夏の太陽を心ゆくまで楽しみ、身体いっぱいに浴びるためにやって来るのです。ドイツでも夏休みになると、オーストリアと国境を接するバイエルン州へ向けて、車は南へ南へと向かい、渋滞は常時という事です。またドイツで一番人気の外国旅行先は、スペインそしてエジプトです。
クラーゲンフルトでは市長さんにご挨拶に行きました。モダンなインテリアとハイセンスな装飾で、外装とあまりに違うので、ビックリしてキョロキョロ見回していると、明るいベージュのスーツに身を包んだ長身のかっこいい男性が現れて、これにも意表をつかれました。一通り、町の歴史や産業等の説明が終わると、外に出て記念撮影にも気軽に加わってくれます。
美しく花で飾られた窓がならぶオーストリアの家々の写真を御覧になったことがある方は多いと思います。実際に多くの家が美しく花で飾られていて、それは市庁舎も例外ではありません。前の広々とした塵ひとつないノイアープラッツ広場には、シーラカンスのお化けのような伝説の龍 "Lindwurm" の像があり、その口からは勢い良く一筋の水が出ています。オブジェのふりをしていますが、これは噴水です。
オーストリアに入って、はじめの内は、美しい景色や、珍しい家や、銅像、どこの町にもある小さな水飲み場など、日本人にとってあまり見ることのない建造物を被写体としていました。龍の噴水も勿論そうです。でも次第に目が慣れて、町や景色が美しいのが「当たり前」になってきたのか、写真を撮らなくなってきているのに気がつきました。
そして今度は人間を撮り始めました。特にオーストリアの子供は本当にエンジェルの様に可愛いのです。(私はエンジェルの実物を見たことはないのですが、そんな気がするのです。)龍の噴水の前にいた、乳母車の中の可愛い坊やにみんなのカメラが集中しました。あんまり可愛くてつい触ったりもしてしまいます。天使はついに耐えきれなくなって、笑顔は泣き顔に崩れてしまいました。「泣き顔も可愛い。」とシャッターを切ってしまう、嗚呼、私は絶望的な日本人です。
青年撮影隊は、ミニチュア公園に向かいます。家族連れでにぎわっている園内は、かなりの広さで精巧なミニチュアの家が100以上あり、ミニチュアの列車も走っています。誰でもそれと分かる有名な建物もありますが、私にはあまりよく分かりません。
その後は、旅行中、結局この時一回きりだったのですが、近郊の湖ヴェルターゼーで水泳の運びとなりました。本場アルプスの山ばかり見てきたので、我々は歓声を上げて湖に飛び込みました。と書きたいのですが、水が冷たくておそるおそる、足を水につけていったのが真相です。それでも日なたの気温は28℃くらいあるのですが、水温は低く感じました。泳いでいないときは、何か羽織っていないと肌寒いくらいでした。
たいていの人は、芝生の上や、湖に突き出た広い桟橋のような木製の橋の上で、思い思いに、寝ころんだり、たまに水につかったりしています。従って、人が大勢いる割には泳ぐスペースは空いています。桟橋は絶えず濡れた人が歩いているのですから、日本では濡れてヌルヌルしているものですが、からからに乾燥していて、濡れたところだけ斑点になっているなんて考えられます?
前回、自然と人工物との調和のすばらしさについて述べました。でもこの湖のこの水泳場に関しては(ここしか知らないので、これは私の偏見とお許し下さい。)、私は少しがっかりしました。"ここは観賞用ではなく、泳ぐための場所"と割り切って、港のように囲いがあり、渚がありません。「へえー(塀)」なんて言わないで下さいね。安全性や、清潔さ、快適さ等が求められるのか、まるでプールにいると思うほどでした。日本なら、室内プールに椰子が植わっていたりしそうですが、こちらでは限りなく湖がプールに近づいているのです。びわ湖のほとりに育ち、泳いだ経験のある私には、ちょっと耐えられない"美しさ"でした。でも、これがオーストリア風なのだと、その日も私を充分楽しませてくれたことに、変わりはありません。
その夜、我々はパーティをしました。ちょうどその日が、オーストリアの最初から最後までずーっと我々につき合ってくれた、バスのドライバー「エルビン」のバースデイだったのです。全員用意していた、浴衣を着て敬意を表し、夜が更けるまで楽しく飲み、語りました。オーストリアでの時間を共に過ごすほどに、親しさは増し、特にお昼に水泳でみんな思う存分、はしゃいで、ふざけあった後だけに、ちょっぴり疲れはありましたが、勿論「エルビン」も含めて、うち解けた仲間同士として、和やかに過ごす、旅先ならではの心ほぐれるひとときでした。
【補 足】 "ドイツ大好き"のページでケルンテン州についてもう少し