『私のオーストリア旅行』
第40話 " Auf Wiedersehen 〔アウフ ヴィーダーゼーエン〕! "
---- また会いましょう !----
誰もが迎えたくなかった朝がついにきました。今日でオーストリアともお別れです。昨日まで乗っていたバスは今朝もそこに止まっていますが、もうエルビンに手伝ってもらって、そのボディに自分のトランクを積み込むわけには行きません。お土産でパンパンになった重いトランクをプラットホームへゴロゴロ押して運びます。それぞれエスコートと記念撮影をしたり、日本へ来てねとか、またオーストリアで会いましょうとか、お決まりの言葉以外に言葉がうまく見つかりません。
握手した手を離さず、上下に振りながら、お別れの言葉ヴィーダーゼエーーエーーエン(=See you again.)を言いながら、別れを惜しみます。ヨーロッパの人たちは、体全体で感情を表現します。
エスコートの二人は、グループの中に足を踏み外して骨折する人も、風邪を引いて熱を出す人も、迷子になる人も、けんかを仕掛ける人も、乗り物に乗り遅れる人も無く、事件といえばバスのパンクぐらいで、昨日の一瞬ヒヤッとしたあの花火騒動も、くぐりぬけ、まあ何事もなく無事に最終日を迎えられたと、胸をなでおろしていたかもしれません。
私たちは、大きな善意の上に成り立っているこの旅行の深いところを省みる事も無く、日本に帰るのが全く残念でならないだけ。
男の子達が、手伝いあってトランクはすべて列車に積み込まれました。
ここでも、発車ベルがなることもなく、列車がゆっくりと動き出したその時です。線路の上の見送りの人たちの手に白い大きなハンカチが・・・、アッ!シーツです。ちぎれんばかりに振るには、両端を持つ二人の女の子には、シーツは重過ぎます。窓から皆、身を乗り出して手を振ります。列車の速度が上がり、やがて人の姿が小さくなっても、ゆーらゆーらといつまでもいつまでも、白いシーツが揺れています。思わず涙が・・・・。
姿が見えなくなって、席に戻ってもまだ涙は止まりません。とうとうと流れるイン川に沿って走る列車から、チロルの景色がぼんやりと見えます。初めて足を踏み入れた、フォアアールベルグ州に入りました。楽しかった思い出が一つ一つ浮かんできます。
ひとしきり、センチメンタルになったみんなも、青春の真っ只中を驀進中、オーストリアとスイスの国境を越える頃には、元気な笑顔が戻り、またいつものバカ話、数々の思い出話、そしてまだ見ぬ、スイス、フランスの話に花が咲きます。3日後には、各国での親善旅行を終えたメンバー達と再会です。集合地は憧れの花の都パリ。フランクフルトで別れた、後、どんな風にその国を旅したろう。我々みたいに楽しかっただろうか。日本は暑いだろうな。友達はどうしているかな。帰国の飛行機に乗り込む日が迫って、にわかに里心のついた若者たちに、睡魔が襲ってきました。
険しく切り立ったスイスアルプスの間を走る列車の音が、静かになった車内に、ゴトン、ゴトーン、ゴトン、ゴトーンと規則正しく響いています。
アウフ ヴィーダーゼーエン「また会いましょう。」