『私のオーストリア旅行』
第38話 " ザルツブルク 4 "
------ ゲトライデガッセ ------
ザルツブルクには、モーツァルト以外にも我々を魅了するものはあるのですが、やはりモーツァルトなくしてはこの町の魅力は半減してしまいます。一番の賑わいを見せるゲトライデガッセ真中9番地にモーツァルトの生家があります。ミラベル庭園からザルツァッハー川を渡って、まっすぐ突き当たり、T字路になった所です。外壁はマリアテレジアイエローに塗られており、オーストリアの国旗が長く垂れているのに、初めての時私は、事もあろうに通り過ごしてしまいました。そう目立つ豪華さも無いのですが、私の音楽に対する興味はその程度のものであり、お買い物に夢中になっていたというのが本当のところです。
生家は今はモーツァルトミュージアム≠ノなっていて、世界中からモーツァルトファンが詰めかけ、玄関にはいつも観光客が数人ウロウロしています。ただでさえ狭い、天井の低い、そして楽譜やバイオリンや肖像画などの展示された室内は、独特の照明効果であまり晴れやかな印象がありません。そして一人で精一杯の狭い足元の悪い階段を下りて、通りに戻ると、ホッと開放感に満たされます。♪.
びっしりのスケジュールの間にも、買い物、散歩、etc. 常に若者は抜け目なく楽しみ、休憩はバスの中での片時の熟睡。それも景色の素晴らしさに見とれてままならぬ時も。なのに夜は夜でパーティ。そんな毎日が永遠に続くわけはなく、オーストリアで残された時間はもうわずかです。自分自身に、「ゲンマ、ゲンマ」と言いながら、買い物の悔いが残っては大変と、ザルツブルクの町を走り回ります。この、「ゲンマ、ゲンマ」という言葉。随分と後になってから知ったのですが、実はオーストリアの牛を追う言葉。我々は旅行中、こう言って幾度となく急き立てられました。各地で企画されている満載のスケジュールをこなそうと思えば、一箇所にぐずぐずはしていられません。意味を知ったときは、「失礼な」と思いましたが、全くその通りです。首についた大きなカウベルをガラガラと響かせる代わりに、カメラをぶら下げて、ペチャクチャしゃべりながらのろのろと歩く牛、いや私達。
この「ゲンマ、ゲンマ」が、最近、静かな滋賀県立図書館で小さく聞こえてきました。オーストリアの人に違いありません。思わず立ち上がりそうになりましたが、急いでいると分かっているのに・・・・、聞かなかったことにし、冷静さを装いました。
広い大通りに市電や市バスや車が行き交い、はるか向こうに反対側のお店の並ぶ大都会と違い、ドイツやオーストリアの地方のこじんまりした町では、古い部分を人をターゲットに古街Alt Stadt 〔アルトシュタット〕として、そのままの状態で残し、車をシャットアウトして所謂人に優しい♀Xづくりが丹念になされています。郊外のスーパーにお客を持っていかれてシャッターを下ろしたままの店が点在する古い商店街のようなところはあまり見かけません。
繁華街ゲトライデガッセ(ガッセは小路とでも言えば適当か)はこのようなAlt Stadtの一つで、どの観光ガイドにも必ず登場する、通りの両側のお店から頭上に張り出した、看板代わりの楽しい金属の細工物で、皆さんもおなじみだと思います。そこは、ザルツブルク銀座という言葉が似合うような田舎町で、観光客がたくさん来るとはいえ、まだまだ、ほのぼのとした昔風の雰囲気が、至る所にありました。人が危険を感じないでおしゃべりしながら歩るくことが出来、なおかつ手抜かり無く、殆どのお店のウィンドウショッピングも出来る、程よい広さです。早朝は人がいなくて結構広いのですが、昼間は人がいっぱいで狭いくらいです。
古い石畳の道路の両側には、小さな、でもそれぞれが個性的で親しみのもてる、古い歴史を感じさせる店が軒を連ねています。、横丁を曲がれば、京都の先斗町にあるような路地がトンネルの様になっており、小さなウィンドウには可愛いディスプレイ。そして天井の低い小さな店がいくつもあります。そんな中に、造花やドライフラワーばかりのお店がありました。長い冬の間、生花が手に入りにくいのかもしれません。薄い透明なガラス球にドライフラワーが上手にアレンジされた、飾り物が、何十も天井からぶら下げられていました。似たようなドライフラワーは、広場の露店でも見かけましたが、ここが一番でした。
この心地よい町で、私はついに見つけました。天井から壁から店内すべてが、チロリアンテープで飾られている、いえ飾ってあるのではなく売っている専門店です。チロリアンテープのついた、エプロンや、クッションなど製品を買ってもいいし、テープそのものを好きなだけ切ってもらう事も出来ます。色も単色のもの、たくさんの色が使われているもの、そして同じ色で、幅を違えてセットで使えるもの、それはもう夢のような空間です。旅の最後の最後ついに、たどり着きました。本場のチロリアンテープがほしい。これは、旅行前にあげたお買い物リストの上位にランクしていたものです。かといって店ごと買うわけにもいきません。いいものは高いのです。この店で私はあまりにも満足したので、他のものを買う意欲をなくすほどでした・・・・・・・。
この町は行く度に変貌をとげ、懐かしい親しみのある、こだわりを感じる老舗がいつのまにかなくなり、スーパーのような大型店舗がふえ、そこには大量生産の雑な衣料が並ぶようになりました。残念ながら、このチロリアンテープ専門店も1981年にはなくなっていました。近年、夏にヨーロッパのハイソサエティの人たちの集う音楽祭の街として、グレードアップし続けるザルツブルクは、観客目当てに(もしかしたら多くの日本人)、非常に洗練されたセンスの高級店が増え、言わずもがな、多くのブランド専門店がひしめいています。初めはブランド店など一軒も無かったのに。 ザルツブルクブランドの良質の品を売る魅力的な店より、有名ブランド店でありさえすれば良いという観光客に迎合するのが世の流れなのでしょうか。
私が買ったもう一つのもの。それは皆さんも良くご存知のザルツブルク饅頭。違いました。「モーツァルトクーゲル(モーツァルトの球)」。モーツアルトの絵のついた銀紙を剥き、半分に割れば、綺麗な同心円が見える直径3cm程のチョコレート菓子で、ザルツブルク観光の物的証拠ともいえる名前です。今も昔も、変わりなく売られていますが、バブルの頃、日本の製菓会社が商権を買い、裏を返せばどこかにMeiji と書いてあるという話で「みなさん、それでも買って帰りますか?」とはダンディな名物日本人ガイドの言葉です。ただし本家フュルスト≠フHPはこちら
いくら短い繁華街とはいえ、このように入り組んでいて、しかもぎっしり建ち並ぶそれぞれのお店を一軒一軒訪問していれば楽しくて時のたつのを忘れます。結局、ザルツブルクノッカーという有名なお菓子を食べる間もなく、集合時間がきて、約束の「馬の水飲み場」へ走る事となりました。
その後私は、2度ザルツブルクを訪れています。その時の事はまた別の機会に書くことにします。
【補 足】 ザルツブルクについてもう少し
【お詫び】
ただいま、スキャナーとの接続不能で画像作成が出来ません。しばらくお待ちください。